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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)391号 判決 2000年1月27日

原告

ミヤショウプロダクツ株式会社

代表者代表取締役

訴訟代理人弁理士

被告

株式会社伸和

代表者代表取締役

訴訟代理人弁護士

石川悌二

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  原告

特許庁が平成7年審判第6122号事件について平成10年11月5日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

訴外サンセイ工業株式会社(以下「サンセイ」という。)は、意匠に係る物品の名称を「靴収納棚」とし、その形態を別添審決書の別紙第一「本件登録意匠」のとおりとする登録第902450号意匠(平成4年12月21日登録出願、平成6年4月22日設定登録。以下「本件意匠」という。)の意匠権者であった。

サンセイは、原告に上記意匠権(以下「本件意匠権」という。)を譲渡し、平成10年5月11日、これに基づく意匠権移転登録がなされた。

被告は、平成7年3月20日、サンセイを被請求人として、本件意匠の登録無効の審判請求をした。特許庁は、これを特許庁平成7年審判第6122号事件(以下「本件審判事件」という。)として審理した結果、平成10年11月5日、「登録第902450号意匠の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決をし、平成10年11月19日にその謄本を原告に送達した。

2  審決の理由

別添審決書の理由の写しのとおり

第3原告主張の審決取消事由の要点

審決は、原告に審判請求書の副本を送付せず、答弁の機会を与えなかった手続の違法があり、また、証拠の評価を誤った違法があり、これらの違法は審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、取り消されるべきである。

1  取消事由1(審判手続の違法)

審決は、原告に対して、審判請求書の副本を送付せず、答弁の機会も与えずに審判をしたものであって、意匠法52条(特許法134条1項を準用)に違反しているから、取り消されるべきである。

(1)  原告は、サンセイから本件意匠権を譲り受けたが、サンセイと被告との間で本件審判事件が係属していることを知らず、特許庁から審決書の送達を受けたことで、はじめて上記事件の存在を知ったものである。B弁理士やD弁理士がそれまでに知っていたとしても、原告は、両弁理士に本件審判事件の審判手続の委任をしたことはない。

確かに、原告は、B弁理士やD弁理士に対して、本件意匠の移転登録手続についての委託をしたことはある。また、その委任に係る包括委任状の委任事項の中には、「すべての特許、特許権の存続期間の延長登録、実用新案登録、意匠登録、商標登録、書換登録、防護標章登録及ぴ商標(防護標章)更新登録に対する無効審判の請求に関する手続き」とする事項の記載がある。しかし、「包括委任状」の制度は、意匠の登録出願をした時点から、出願に関する一切の手続及び当該出願の異議、審判に至るまでを包括的に委任して、特許庁及び出願人の手続の簡略化を図ったものであり、本件の包括委任状についても、出願から権利の存続期間満了まで1つの権利について一気通貫的に委任したにすぎないものであって、意匠権の譲受人である原告が全く関与していない無効審判事件についてまで、その一切の手続上の責任を負わせられるものではない。

(2)  包括委任状が本件審判事件の代理権を包含し、審理続行通知がなされたとしても、原告は、サンセイから、本件意匠に係る意匠権を譲り受けたものの、サンセイと被告との間で本件審判事件が係属していることを全く知らなかったのであるから、このような場合に、一回も答弁の機会を与えず、突然無効審決の審決書を送達することは許されるものではない。

2  取消事由2(証拠評価の誤り)

審決は、本訴の乙第1号証の1及び2(審決の甲第15号証の3及び4。「生活百貨 わが家のお掃除&台所グッズ」と題する広告チラシ)が平成4年11月23日ないし27日以前に頒布されていたと認定し、この認定を前提に、同号証記載の意匠が本件意匠と類似するから意匠法3条1項3号に該当し、本件意匠は登録を受けることができないと判断した。しかし、乙第1号証の1及び2は、頒布日の不明な書証であるから、審決は、証拠の評価を誤った結果、判断をも誤ったものである。

第4被告の反論の要点

審決には、誤りがなく、取り消されるべき理由はない。

1  取消事由1(審判手続の違法)について

本件審判事件の審判長は、原告から平成10年3月11日に提出された本件意匠権の移転登録申請書と委任状を確認し、これを包袋に差し置いたうえ、同年5月29日、請求人、被請求人の双方代理人に対して審判手続続行通知書を発した。上記審判手続続行通知書は、その記載内容からも明らかなように、被請求人の地位の交替を知った審判長が職権で被請求人の承継を認め、爾後、権利の譲受人である原告を被請求人とすることを決定し、本件審判を続行する旨の通知書とみるべきである。そうすると、本件審判において、それまでの弁論や証拠調、裁判等の訴訟行為の効力はすべて承継後の訴訟について効力をもつ反面、前当事者の既にできなくなった行為は承継人としてもできなくなるとする民事訴訟法の原則が適用ないし準用され、本件意匠権の譲受人である原告は、本件審判事件における権利承継前の手続について責任を負うことになるのである。

特許庁における包括委任状制度は、平成2年の特許法等の改正時に、制度のぺ一パーレス化の一環として導入されたものとされており、特定の依頼者が、特定の代理人を選任し、包括条項を記載した委任状を特許庁に提出すれば、爾後、個々の案件についてその都度委任状を提出する必要がないとするものである。そして本件の包括委任状には、委任条項として30弱の項目が不動文字でぎっしりと記載されており、その中に「すべての特許、特許権の存続期間の延長登録、実用新案登録、意匠登録、商標登録、書換登録、防護標章登録及び商標(防護標章)更新登録に対する無効審判の請求に関する手続」の事項が記載されているのであるから、特許庁が、B弁理士やD弁理士を原告の代理人として扱ったことに何ら手続上の瑕疵はない。

2  取消事由2(証拠評価の誤り)について

原告は、乙第1号証の1及び2は、頒布日の不明な書証であるから、審決は、証拠の評価を誤った結果、判断をも誤ったものである旨主張する。

しかしながら、乙第1号証の1の左上部には、「注文締切日11月4回 11月23日月~11月27日金 商品配達日12月2回 12月7日月~12月11日金」と記載され、乙第2号証(郵便局頒布の1990年ないし2001年の各年度のカレンダー)によれば、11月23日が月曜日、11月27日が金曜日、12月7日が月曜日、12月11日が金曜日に該当する年は、平成4年(1992年)であり、それ以外に該当する年は存在しない。この種のチラシ広告は、そこに記載されている注文締切日以前に配布が完了しているものであるから、乙第1号証の1及び2は、平成4年11月23日ないし27日以前に配布が終っていたものと認められるので、少なくとも本件意匠の登録出願日である平成4年12月21日以前に日本国内において刊行物として頒布されたものである。

よって、原告の上記主張は、理由がない。

第5当裁判所の判断

1  取消事由1(審判手続の違法)について

(1)  意匠法68条2項(特許法21条を準用)によれば、特許庁長官又は審判長は、特許庁に事件が係属している場合において、意匠権その他意匠に関する権利の移転があったときは、意匠権その他意匠に関する権利の承継人に対し、その事件に関する手続を続行することができると定められ、意匠法施行規則11条1項(特許法施行規則17条を準用)によれば、特許庁長官又は審判長は、意匠法68条2項(特許法21条を準用)の規定により意匠権その他意匠に関する権利の承継人に対し手続を続行しようとするときは、その旨を当事者に通知しなければならないと定められ、そして、意匠法68条2項(特許法20条を準用)によれば、意匠権その他意匠に関する権利についてした手続の効力は、その意匠権その他意匠に関する権利の承継人にも及ぶものと定められている。

上記諸規定によれば、意匠権に関し特許庁に無効審判事件が係属している場合において、意匠権の移転があったため、審判長が職権により当該譲受人に対して手続を続行することを決定し、当事者にその旨通知したときには、当該意匠権の譲受人は、当事者の地位を取得し、当該事件の手続の効力は、譲渡人が当該事件の係属を既に知っていたか否かに関係なく、すべて譲受人に及ぶものと解される。

本件についてみると、被告が、平成7年3月20日、サンセイを被請求人として、本件意匠の登録無効の審判請求をし、特許庁平成7年審判第6122号事件として審理されていたことは、当事者間に争いがなく、甲第3号証の12、13によれば、原告は、平成10年3月2日、「すべての特許、特許権の存続期間の延長登録、実用新案登録、意匠登録、商標登録、書換登録、防護標章登録及び商標(防護標章)更新登録に対する無効審判の請求に関する手続」を含む26項目の諸手続についてB弁理士及びD弁理士に委任するという包括委任状を作成し、B弁理士は、この包括委任状に基づいて、同年3月11日付けで、原告がサンセイから本件意匠権を譲り受けたことについて当該権利の移動登録の手続をしたこと、本件審判事件の審判長は、同年5月11日付けで特許庁の登録課長から権利異動通知を受けて、本件意匠権が原告に移転されたことを知り、職権により原告に対して手続を続行することを決定し、同月29日付けで、原告の代理人としてのB弁理士又はD弁理士宛てに審判手続続行通知書を送付したことが認められ、弁論の全趣旨によれば、B弁理士又はD弁理士は、そのころ、同通知書を受領したことが認められる。

上記認定の事実によれば、上記包括委任状により本件審判事件について受領権限を有するB弁理士又はD弁理士が上記審判手続続行通知書を受領したことによって、審判長の本件審判手続の続行の決定が原告に通知されたものと認められるのであり、その結果、本件意匠権の譲受人である原告は、本件審判事件における当事者の地位を取得し、本件審判事件の手続の効力は、すべて譲受人に及ぶことになったものというべきである。

したがって、審決が意匠法52条(特許法134条1項を準用)に違反しているとする原告の主張は、採用の限りでない。

(2)  原告は、本件の包括委任状は、特許庁の「包括委任状」の制度に基づいて、出願から権利の存続期間満了まで1つの権利について一気通貫的に委任したにすぎないものであって、原告が、B弁理士やD弁理士に、原告が全く知らなかった本件審判事件の審判手続についてまで委任をしたことはない旨主張する。

原告のいう「一気通貫的に委任した」が何を意味するのか必ずしも明らかではない。しかしながら、包括委任状には、前記認定のとおり、「すべての特許、特許権の存続期間の延長登録、実用新案登録、意匠登録、商標登録、書換登録、防護標章登録及び商標(防護標章)更新登録に対する無効審判の請求に関する手続」をもB弁理士及びD弁理士に委任する旨が記載されていて、その記載は網羅的であり、既存の事件を特に対象から除外するような記載の仕方にはなっておらず、また、そのように除外することに合理性も認められない以上、このような記載にかかわらず原告が上記事項を上記両弁理士に委任していないと認定し得る特別の事情がない限り、原告の委任事項の範囲は、本件審判事件の代理にも及ぶものというべきである。ところが、本件全証拠を検討しても、上記特別の事情に該当する事実を認めることはできない。原告の主張は採用できない。

(3)  原告は、サンセイから、本件意匠に係る意匠権を譲り受けたものの、サンセイと被告との間で本件審判事件が係属していることを全く知らなかったのであるから、このような場合に、一回も答弁の機会を与えず、突然無効審決の審決書を送達することは許されるものではない旨主張する。

しかしながら、原告が、本件審判事件における当事者の地位を取得し、それまでの当該事件の手続の効力は、すべて譲受人である原告に及ぶことになったことは、前記認定のとおりであるから、原告の主張は成り立たない。のみならず、甲第3号証の15と弁論の全趣旨によれば、特許庁は、平成10年10月14日ころ、両当事者に対して審理終結を通知していると認められるから、前認定のとおり同年5月29日ころ審判手続続行通知書の送付を受けてから審理終結まで4か月以上もあったことになるのであり、原告には、反論する機会が十分にあったものと認められる。

原告の取消事由1は、採用できない。

2  取消事由2(証拠評価の誤り)について

原告は、乙第1号証の1ないし3は、頒布日の不明な書証であって、審決は、証拠の評価を誤った旨主張する。

しかしながら、甲第4号証、乙第1号証の1及び乙第2号証及び弁論の全趣旨によれば、「生活百貨 わが家のお掃除&台所グッズ」と題する広告チラシは、群馬県下の生活協同組合から、その取り扱う商品を広告宣伝するために頒布されたチラシであること、同チラシの1枚目の左上部には、「注文締切日11月4回 11月23日月~11月27日金 商品配達日12月2回 12月7日月~12月11日金」との記載があること、1990年ないし2001年の間に、11月23日が月曜日、11月27日が金曜日、12月7日が月曜日、12月11日が金曜日となる年は平成4年(1992年)のみであり、それ以外には該当する年が存在しないことが認められる。

上記生活協同組合が過去の日付で広告宣伝をするはずがないので、上記チラシが「11月23日~11月27日」以前に頒布されていることは、同チラシそれ自体から明らかというべきであるから、乙第1号証の1及び2が配布されたのは、平成4年11月23日以前であるものと認められる。したがって、審決が、乙第1号証の1及び2が平成4年11月23日ないし27日以前に頒布されていたと認定したことには、誤りがなく、原告の取消事由2も採用できない。

3  以上によれば、原告主張の審決取消事由は、いずれも理由がなく、その他、審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)

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